震災支援ネットワーク埼玉

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第5回 避難者状況調査報告(1):首都圏避難者のストレスレベルが反転上昇

第5回 避難者状況調査報告(1):首都圏避難者のストレスレベルが反転上昇

2016年度避難者状況調査の概要

私たち震災支援ネットワーク埼玉は、2011年3月、さいたまスーパーアリーナが一時避難所となり、東日本大震災および東京電力福島第一発電所の原発事故による避難者を受け入れた際に駆け付けたボランティアの中で、弁護士、司法書士、医師、看護師、臨床心理士、社会福祉士、ITスペシャリストなど、各方面の専門家により相談を担当したグループで、以来、被災者支援活動を継続して行っています。

2012年春に福島県から埼玉県へ避難中の世帯を対象として実施した「避難者状況調査」以来、毎年形を変えながら実施し、第5回目となった2016年度避難者状況調査は、以下の自治体にご協力をいただいて実施させていただきました。

  • 双葉町(関東1都6県):875世帯
  • 大熊町(関東1都6県):1,000世帯
  • 富岡町(関東1都6県):1,500世帯
  • いわき市(関東1都6県): 700世帯
  • 南相馬市(全国):6,200世帯
    合計:10,275世帯

皆様には多数の設問でご負担をおかけいたしましたことをお詫びさせていただきますと共に、ご協力をいただきました方には心より御礼申し上げます。

アンケートの構成

本調査の目的は、福島県外で避難生活を送る皆さんの現状の課題、問題点を集計、分析し、分析結果を、行政やNPOなどと共有し、今後の支援活動の指針としていくことにあります。

第一部のこころの状態に関する設問では、ストレス状況について簡易に自己採点できるようにした上で、こころに大きな負担がかかる場合に、その要因は何なのか?という事を第二部の設問により多角的に俯瞰できるような構成としました。

さらに、新たな試みとしてご希望に応じて各分野の専門家により相談対応を行い、また、状況/ご希望に応じて専門の支援員を派遣させていただいております。

電話・訪問により、アンケートではお聴きできなかったことも含めて詳細にお話しいただくことで気持ちの整理をしていただき、さらには抱える悩み、問題を解決できそうな専門機関/専門家をご紹介することで、解決に向けて、ご一緒に一歩を踏み出すことができればと願っています。当然ですが、個人情報は厳重に管理し、秘密は厳守いたしております。

集計結果については、早稲田大学 人間科学学術院およびSSN「避難者状況調査委員会」において分析/解析を継続的に行っておりますが、まずは今回の調査結果から見えてきたことをまとめてさせていただきました。

広域避難者が抱える深い心の傷

私たち震災支援ネットワーク埼玉は、早稲田大学 災害復興医療人類学研究所と共同で、2012年3月に埼玉県への避難者を対象にアンケート調査を実施させていただいて以来、避難生活中の皆さんのストレス状況について毎回集計させていただいています。設問としては、国際的に標準化された質問紙である「改訂出来事インパクト尺度」(略称:IES-R)を用いています。

さて、最近ではマスコミでもしばしば取り上げられるようになったPTSD=心的外傷後ストレス障害ですが、天災、事故、戦争、犯罪、虐待など、命の安全が脅かされるような出来事によって強い精神的衝撃を受けることが原因となり、精神的不安定、不安、不眠などの過覚醒症状やトラウマの原因となった障害の回避傾向、フラッシュバックなどが基本的な症状とされています。このIES-Rのスコアが25点以上となるとPTSDの可能性があるストレスレベルにある疑いがあるとされています。

1995年に発生した阪神淡路大震災が発生した3年8カ月後の調査では約40%の方がPTSDの可能性があるストレスレベルにありました。2004年に発生した新潟県中越地震では3カ月後及び13カ月後の調査では約21%という数値でした。

一方、2012年3月の調査(埼玉)では過去の震災と比較してはるかに高い67.3%という3人に2人がPTSDの可能性があるストレスレベルにありました。

2年後は埼玉県に加え東京都内に避難中の方に調査範囲を広げたのですが、59.6%と依然と高い数値でした。4年後は52.5%、5年が経過した2016年には32.9%とおよそ3人に1人と低下する傾向にありました

2016年春にストレスレベルが低下したのは、原子力賠償紛争審査会の中間指針 第四次追補により、移住に伴い新たな住居を取得するための損害賠償が示され生活再建の柱となる家屋の確保の見通しがついた方が多いことが大きな要因の一つであるように思われます。実際、調査結果では、すでに25%の方が福島県外に移住し、新たな人生の再スタートを切り始めていらっしゃるようです。

ところが、6年が経過しようとしている2017年には51.9%と反転してしまっている状態となっています。

まずは、ストレスを高める要因となったものは何なのかを探ってみたいと思います。

ストレスの原因を探る

「PTSDの可能性」があるほどの強いストレスの要因となるものを調査用紙の中でさまざまな角度からお尋ねさせていただきました。回答をつぶさに分類してみると1、心理的要因、2、社会的要因、3、経済的要因という3つが浮かび上がってきます。

1、心理的要因

  • 原発事故発生当初1週間に「死の恐怖」を感じたこと
  • 「ふるさとを喪失」したつらさ、
  • 地域の人との関わりの中で避難者であることによって「いやな経験」をしたこと

2、社会的要因

  • 悩み・気がかり・困ったことを「相談」できる相手が近くにいない
  • 何でもきさくに打ち解ける仲間、コミュニティが失われてしまった
  • 長期化する避難生活の中で、家族との関係がうまくいかなくなってしまった

3、経済的要因

  • これからどのようにして生計を立てていくかという心配
  • 生活の基盤となる家をどうするか
  • 避難先での仕事の問題

さらには、自由記述欄にお書きいただいている内容を集計してみると、これから先の見通しができないことによる「不安」、国や東京電力などに対する「不信」、さまざまな政策、除染作業などへの「不満」などが複合的に絡み合ってストレスを高めているものと思われます。

6年が経過してストレスレベルがなぜ反転?

2017年3月末をもって自主避難世帯に対する住宅の無償供与が終了となります。東京電力は1度だけ、ごくわずかな賠償金しか支払をしていません。
多くの自主避難者の方々はお子様への放射線によるリスクを回避するために福島を離れています。

そんな自主避難者の方に、「原発の近くでなかったら、みんな平気で住んでいるんだし、福島に戻れるんじゃない?」というようなことを安易に口に出す人がいます。

しかし、小さかったお子さんも6年が経過し学校に通うようになると、簡単には動くことができません。中には避難元の親類から「なぜ逃げたの? いつまで避難しているの?みんなこっちで普通に暮らしているのに」などと言われてしまい、戻るに戻れない方もいらっしゃいます。

お子さんが首都圏での暮らし、学校生活に慣れて、お友達と仲良く勉強もできている場合の方がむしろ多いかもしれません。しかしマスコミで”いじめの問題”が報じられることで、周囲が気を遣うことで何とも耐えがたい空気を感じているお母さまもいます。

父親だけが避難元で仕事を継続する場合には二重生活。避難元の家にローンが残っている場合、ただでさえ家計は苦しい所に、住宅の無償供与が終了してしまうことで自主避難中の皆さんの暮らしはますます困窮していく恐れがあります。

新たな自主避難

2014年4月には田村市都路地区東部、2014年10月そして2016年6月には川内村東部の避難指示が解除されました。続いて2015年9月5日楢葉町の避難指示が解除され、2016年6月には葛尾村、同7月には南相馬市の帰還困難区域を除く区域の避難指示が解除となりました。

避難指示解除の1年後には、東京電力による精神的慰謝料の支払いが停止となり、これらの区域から避難生活を続けている方は“新たな自主避難者”ということになるわけです。ちなみにこれらの解除された地域への住民の帰還率は2017年1月末現在では約13%にとどまっている状況にあります。

(画像提供:福島民友社)

そして2017年の春には1万5千人におよぶ新たな自主避難者が生まれることになります。2017年3月31日には浪江町、飯館村、川俣町山木屋、4月1日には富岡町の居住制限区域、避難指示解除準備区域が避難指示解除となります

解除対象は、避難指示解除準備区域7469人、居住制限区域7858人の計1万5327人(1月末現在)が”新たな自主避難者”となるわけです。避難指示が解除となることで、1年後には東京電力による精神的慰謝料の支払いが終了し、避難住宅の無償供与も終了となる見込みです。

首都圏避難者はますます追い詰められる状況にあります。(続く)

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